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大阪高等裁判所 昭和62年(う)457号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中六〇日を原判決の刑に算入する。

理由

論旨は、原判決の量刑不当を主張するが、本件は、昭和五九年六月及び同六〇年一月に言い渡された再度にわたる執行猶予付き懲役刑(二度目は保護観察付き)の前科を有する被告人が、右前刑及び前々刑の執行猶予期間中に犯した強盗致傷の事案であるところ、原判決は、被告人に対し、酌量減軽の上処断刑の最下限である懲役三年六月の刑を科しており、これ以下の量刑はあり得ないから、原判決の右量刑が重すぎるとは到底いえない。また、所論は、未決勾留日数の算入の点についても言及するが、原判決は、原審における起訴後の未決勾留日数九〇日のうち六〇日を本刑に算入しているのであるから、原判決の未決勾留日数の算入の点も妥当と認められる。論旨は、理由がない。

次に、職権をもつて判断するに、記録によると、原判決は、被告人が、原判示日時場所において、共犯者二名(いずれも併合審理されていない。)と共謀の上、原判示サイドリングマスコット一個を窃取し、その直後、警備員尾崎美知から逮捕されそうになるや、逮捕を免れる目的で同人に対し、こもごも殴る蹴るの暴行を加え、同人に加療約一〇日間を要する傷害を加えた旨の公訴事実(強盗致傷の共同正犯)に対し、共犯者二名は、被告人の窃盗が既遂に達したのちにこれに関与したものであつて、窃盗の共同正犯ではないとし、かかる共犯者は事後強盗の主体ともならないから、被告人ら三名について強盗致傷の共同正犯をもつて擬律することは相当でないとの見解を示した上、被告人の所為につき、「刑法二四〇条前段(二三八条)に該当(但し、傷害罪の限度で同法六〇条も適用)する」旨判示している。

しかし、記録を検討すると、本件において被告人は、原審公判廷で事実を全面的に認め、検察官請求書証の取調べにもすべて同意して、その信用性を争つていないところ、右書証中には、その内容に照らし容易に信用性を否定し難いと思われる、共犯者及び目撃者の公訴事実に副う各供述調書があること、原審は、公判廷における審理に際して右各供述調書の信用性(とくに窃盗の共同正犯の点につき)に関する疑問を示唆したり、あるいは事実認定に関する何らかの立証を促すような訴訟指揮を全くしていないことなどが明らかであつて、右のような証拠の内容及び原審における審理経過等に照らすと、原判決が、率然として、右各供述調書等の信用性を否定したことには、その判断内容においても、また手続面においても、にわかに賛同し得ないものがある。次に、原判決の法令の適用について考えるのに、原認定のように、共犯者二名が被告人の犯行に関与するようになつたのが、窃盗が既遂に達したのちであつたとしても、同人らにおいて、被告人が原判示マスコットを窃取した事実を知つた上で、被告人と共謀の上、逮捕を免れる目的で被害者に暴行を加えて同人を負傷させたときは、窃盗犯人たる身分を有しない同人らについても、刑法六五条一項、六〇条の適用により(事後)強盗致傷罪の共同正犯が成立すると解すべきであるから(なお、この場合に、事後強盗罪を不真正身分犯と解し、身分のない共犯者に対し更に同条二項を適用すべきであるとの見解もあるが、事後強盗罪は、暴行罪、脅迫罪に窃盗犯人たる身分が加わつて刑が加重される罪ではなく、窃盗犯人たる身分を有する者が、刑法二三八条所定の目的をもつて、人の反抗を抑圧するに足りる暴行、脅迫を行うことによつてはじめて成立するものであるから、真正身分犯であつて、不真正身分犯と解すべきではない。従つて、身分なき者に対しても、同条二項を適用すべきではない。)、傷害罪の限度でのみしか刑法六〇条を適用しなかつた原判決は、法令の解釈適用を誤つたものといわなければならないが、原判決は、被告人自身に対しては刑法二四〇条(二三八条)を適用しているのであるから、右法令の解釈適用の誤りが、判決に影響を及ぼすことの明らかなものであるとはいえない。

よつて、刑事訴訟法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数の算入につき刑法二一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官野間禮二 裁判官木谷明 裁判官生田暉雄)

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